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伝えることって

先日見た、ドキュメンタリー番組。
パリでレストランを開いた日本人オーナーシェフを紹介していました。

私は、フランスに住んでいた4年半の間ずっとアルザスに居たので、
パリの様子は旅行で数回行った程度しか知りませんが、マルシェの雰囲気、
建物のようす、お店の看板なんかを見ると、やっぱり懐かしさを感じるし、
部屋の暗い照明や、街中で知り合いにあった時に握手をして挨拶するところに
「そうだった、そうだった」と当時の自分と重ねてみたり。
フランスで働いていることへの羨ましさと、もうフランスに住んでいないこと
への切なさも感じたりしつつ、シェフのいろんなところに「凄いなぁ」と圧倒されて、食い入るように見ていました。

そんな中で、ものすごく引っかかった部分が1ヶ所。
シェフのレストランはミシュラン2つ星のお店なのですが、
お客様と厨房の距離感がとても近いとのことで、
食事をしたお客様が帰り際に厨房を覗いてシェフに話しかけていました。
画面下に出ていた字幕では、

 お客様 「花梨を使った一皿が、甘さが控えめで苦みが生きていて
       素晴らしかったわ」
 シェフ 「人生もほろ苦いものです。花梨は甘いデザートの印象が強いけど、
       酸っぱくて苦いもの。それが嫌ならリンゴを使えばいい。」
 お客様 「とっても美味しかったわ。」

となっていました。(一語一句書き取ったわけではありませんが。)

でも、実際の二人の会話は

 お客様 「花梨のコンポート。あれはもう少し砂糖を加えるべきね。」
 シェフ 「あれ以上にですか?」
 お客様 「ええ。苦すぎるもの。」
 シェフ 「私はそれが好きなんです。花梨の本来の味は酸っぱくて苦いもの。
       でなければ、洋梨やりんごを使えばいい。
       ま、人それぞれの好みですが。」
 お客様 「ともあれ、とてもとても美味しかったわ。
       さまざまな味わいをありがとう。頑張ってください。」

と聞き取れました。

最終的にお客様が伝えたかったのは、料理にとても満足したということ。
その点では、字幕の内容でも特別問題はないのかもしれません。
映像でもお客様もシェフも笑顔で言葉を交わしていたし、
字幕との違和感はなかったかも。

でも私は、この場面、実際の会話こそが、すごくフランスらしいし、シェフの思いや料理への姿勢が良く表れてると思っただけに、字幕の内容をすごく残念に
感じてしまいました。

一般のお客様(料理関係者でない人)でも、自分が感じたことを普通にシェフに伝えようとする。
それに対してシェフも、自分の作ろうとしている味について自信を持って答える。
日本では、どちらも考えられないことではないでしょうか。
(私自身、どちらもできないだろうな・・・)

日本で、もしシェフがお客様の意見に対して「いいえ、これがベストです」と
スパッと切り返したら、「お客様に向かってなんて事を言うのか」と批判されるように思います。「お口に合いませんでしたか。失礼いたしました。」などと返すのが、良しとされるような。

でも、味覚というのはとても主観的なもので、
全ての人が美味しいと思える味なんて恐らく存在しないでしょう。
であれば、このお客様のように「もう少し甘くしてほしい」と感じる人がいて当然ですし、星がつくようなレストランで、冷凍食品のような、いわゆる”万人受けする味”が出てくることを誰も望んでいないと思います。

それを分かっているから、このようなお客様とシェフとのやりとりの間も2人の顔はにこやかだし、お互いの感覚について意見し合うのを楽しんでいるようにも見えました。
シェフが、自分の味へのこだわりをストレートに説明しているところもとても小気味良かったのに、字幕ではシェフの情熱が半減してしまったようで、正直かなりショックでした。

普段の日常会話(もちろん日本人同士の会話)でも、自分の気持ちを表現することや、相手の気持ちをきちんと汲み取ることは本当に難しいこと。
それがTV番組や雑誌の記事になると、
”番組や記事の作り手が伝えたいこと”というフィルターがかかって表現されるのはしょうがない、というか当然なのかもしれません。

でもでもやっぱり、本人の”思い”とのズレが生じてしまうことにすごーく歯がゆさを感じて、番組を見終ってもこの場面がずっと気になってしまいました。
と言っても、私はその本人(シェフ)ではないので、
実際そこには”ズレ”はないのかもしれませんが(笑)

なんだか色んな感情が引っ張り出された番組でした。ふー。 
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